住まいの創造人
口コミで人気広がる家具職人が造る家
あなたは右利き左利き?
家族の癖や性格まで生活視点で織りこむ
Design office Adonis 株式会社 代表取締役
福嶋 寿一郎 氏
鹿児島実業高校土木科―福岡国土建設専門学校測量設計科を卒業。鹿児島市内の土木会社、設計事務所勤務を経て家具作りの世界にはまり、平成23年11月に家具職人が造る家「Design office Adonis」を創業、今年8月に株式会社に移行した。社名は、自分の名前から二文字を取り、幸福と長寿を意味する新春を祝う花から英語名の「Adonis」に。家族は、男の子2人、女の子1人の5人暮らし。資格は、2級建築設計士、測量士。好きな言葉は、高杉晋作の「面白きなき世も面白く」。会社所在地は、同市卸本町7-10。同市出身の37歳。
人は家をつくる 家は人を創る―。そんな想いを込めて日々家づくりと向き合う同社のコンセプトは「家具職人が造る家」。職人たちがプライドを賭けて磨いた技が随所に生きる。匠たちの妥協のない技が家族の思いを形にする。「想い」という字は分解すると木目の心。「心が通い合わない家は、単なる箱。だから一棟一棟に心を込めて、つくり手の心に寄り添いながらストーリー性のある家に仕上げるよう心掛けている」と、職人の心意気を語る。
まだ若いが飄々とした表情の中にもモノづくりにこだわりを持ち続ける職人気質が覗く。取材前、難しそうな職人の姿をイメージしていたが、どうしてどうして、ざっくばらんな性格。しかも一本芯が通った凛とした姿には、こだわりを大切にする〝人間・福嶋〟が垣間見える。
創業は5年前。六畳一間からのスタートだった。お客様から設計図を送ってほしいとの要望があっても自宅にコピー機やFAXがないのをごまかすため「今出先ですから」と、コンビニを利用して送信していたというエピソードもある。
最初は鳴かず飛ばずの状態が続いたが3年前に一棟目のオープンハウスを建て、土日の2日間で87組来場という記録を打ち立てて以来、口コミで評判が広がり今年は累積7棟の実績を積み上げている。
建築は一番やりたくない仕事と思っていたが、コツコツ家具づくりに取り組むうちに「その延長線上にある本物の家づくりにはまってしまった」というから面白い。
家具と同じで手間暇かけてじっくり丁寧に紡ぐというこだわり、追求心が今の天職への誘い水になった。
「とにかくみんなと一緒のものがイヤ」「徹底してこだわり続けたい」と、個性派を自認する。この要因は、いいこと、悪いこと、怒られ、諭され続けてきたやんちゃな少年時代が原点にある。すべてを仕事訓、人生訓として受け入れ、成長してきた。友人、知人など友だちの和を一番大切にする。常により多くの仲間と出会い、ふれ合い、自分の感性を磨くことを心掛けている日々。
最初の一棟目を受注した時に「素人が見て感動する家、職人の顔が見える家。そのためには、腕と人間味で勝負したい」と心に決めたという。それは、オープンハウスの見学会で実証された。「何か雰囲気が違う。格好イイね」と、いう来場者のひと言だった。それを励みにして家づくりと向き合っている。
「家は一生に一度の大きな買い物。だからこそこだわり続けたい。お客様に気に入っていただけるまで一つのプランではなく3~5プランを提案、暮らし安さは勿論、手作り感を優先し、お客様が右利きか左利きか、その癖まで把握して生活者目線で織り込むという徹底ぶり」に共感を覚える人は多い。
家具職人と、専従の大工の共演で家族の想いを形にしてつくり込む。家具との木目合わせ、庇の色味なども含めて、機能性、緻密さを極めた家具、調度品が手作り感を際立たせる。
家の完成時には、地鎮祭から上棟式、途中経過、完成までの家族の笑顔など経過をたどれる一枚のアルバムもプレゼントする。特に上棟式では、ハッピ姿のスタッフによる和太鼓とさつま兵児の謡が響き渡るセレモニーもあり、お客様を感激させる。
お客様との一体感を大切にして、つくり手の想いを伝えたいと、心憎い演出も欠かさない。家具職人が造る家の一番の売り物は、目に見えないところを大切に隅々に職人技を施した緻密さ。引渡し時に「本当に福嶋さんに頼んでよかった」と、泣いて喜ばれるケースも多いとか。「新居の完成時には、毎回お嫁入りさせる気持ちで送り出しています」と、福嶋代表。
まさにマジックでもかけたかのようにぴったりと雰囲気に溶け込む家は、つくり手側の心遣いと、住まい手側の想いを一致させて、日々の暮らしを自然な形でスタートさせる喜びに満ちている。
「引渡し後からのお付合いが一番重要」をモットーにしており、「いつでもクレーム処理ができる会社」を自認、実践し、嫁に出した家のメンテナンスにも心を注ぐ。お客様とともに歩む家づくりが、経営理念である。