My Life Style
暮らしをつくる、吉田耕平さんのお話
うつくし山の日々
<Sumika Vol.24>
東市米町・美山(みやま)。
400 年の歴史を持つ薩摩焼の里として知られ、ガラス・ギター・家具など様々な分野の作家が創作の火を灯し続けている手仕事の里だ。
石垣の小道、生垣の細道、そして緑のさざ波のように揺れる竹林の中をてくてくと歩く。
訪ねたのは、暮らしの道具店「夏ノ庭』。店主の吉田耕平さんにお話を聞いた。
暮らしの道具店
「夏ノ庭」にて
枕木のアプローチの先に、擦りガラスをはめ込んだ木の扉が見える。外から店内の様子け伺えないが、ガラスの向こうにランプかぽんやりと灯り、と望おり人の影が行き来している。
訪ねたのは『夏ノ庭』。青い空と緑の庭の狭間にたたずむ姿は、まさに「美山の棲家」といった風情。住居ではないが、美しい暮らしの在り方やヒントを与えてくれる「町と人にひらいた心の棲家」という言い方は出来るかもしれない。
横開きの、少し軍たい扉をゴトゴトとすべらせて店内に入ると、正面にはキッチン、右手に喫茶室、そして左手に衣食住にまつわる暮らしの道具が並ぶショップという空間配置。ポッポツと照明が灯る店内は、(仄賠くも)どこか凛とした空気感をまとっている。
居場所を、暮らしを
文化をつくっていく
2016年の夏。「つくる暮らし」をもとめて美山の地にたどり着いたという吉田さん。鹿児島との出会いもライブや旅がきっかけだった。今もまだ旅の途中なのかもしれないが、鹿児烏で奥様と出会い、子供も授かった。I夏ノ庭』のホームページには、居場所を決めた当時の吉田さんの想いが記されているので全文紹介したい。
「竹林の小道に分け入ると風に揺らぐ笹の葉が、葉を擦る音がする。珈琲が落ちるように、ゆっくりと時間が流れる町。陶片のような石畳の上を歩く子供の声が聴こえて今日も夕暮れがやってきます。作る暮らしを求め、此処へ移り住みました。木を削るように、台所に立つように。音を楽しむように。日々はそうしてゆっくりと朽ちていくものでありたいと思います。(夏の庭/吉田耕平)」
吉田さんは今日も、コッコッと日々の暮らしをつくり続けている。
細部に宿る美しさと
美味しさを感じて
食や珈琲、器、空間を通して「美しい日常の風景」を作り出す「夏ノ庭』。小説、エッセイ、絵本、旅の本など、書棚に並べられた本のページをめくれば、さらなる世界も広がっていく。
『夏ノ庭』の屋号は、湯本香樹実さんの小説「夏の庭」に由来する。小説では、3 人の少年が日常と非日常を行き来しながら(小さな冒険を経験しながら)成長していく姿が描かれている。本の内容と店に密接な繋がりはないらしいが、木の扉を開いていつもの日々に足を踏み出す時、小説の読後感にも似た爽やかな感覚に包まれていることに気が付く。
鹿児島は美山に店を構え、家族を持ち、いつしか(旅人として迎えられる側ではなく)迎える側になった吉田さん。トントン、ギコギコ、シュッシュ…。「うつくし山」には、今日も暮らしをつくる音が轡いている。